【競馬語り】キセキの菊花賞優勝と世界中の競馬場を訪れるという想い

競馬語り

久しぶりに競馬の話をひとつ。2017年10月22日、第78回菊花賞(GⅠ)。1番人気のキセキが、極悪の不良馬場を見事に制しました。いちばん好きな馬エアグルーヴの系譜が、またひとつ大きなレースを勝った日の話と、「世界中の競馬場を訪れる」という思いについて。

海外在住者が競馬を観られる、年に7回のチャンス

この年のダービーを最後に、競馬を観ていませんでした。グリーンチャンネルWebは海外では使えず、日本の番組が観られるテレビ契約もなく、ライブで競馬を観る機会がほとんどなかったからです。

そんな中でも、海外在住者がライブで楽しめる数少ないチャンスが「NHK競馬中継」です。海外衛星放送の NHKワールドプレミアムで放送されるのは、皐月賞、天皇賞(春)、NHKマイルカップ、日本ダービー、菊花賞、天皇賞(秋)、有馬記念の7レースだけ。菊花賞は、年に7回しかない貴重な中継のひとつでした。

エアグルーヴからルーラーシップ、そしてその仔たちへ

筆者のいちばん好きな馬はエアグルーヴです(理由はこちらの記事に)。2年前には孫のドゥラメンテが悲願のダービー制覇を果たしてくれましたが、前年の宝塚記念後に脚部不安を発症して引退。ドゥラメンテの仔が走るのは数年先という中で注目していたのが、この年の3歳世代が初年度産駒となるルーラーシップの仔どもたちです。

ルーラーシップはエアグルーヴの直仔として、2012年に香港のクイーンエリザベス2世カップ(GⅠ)を勝った馬。不良馬場の金鯡賞を快勝したかと思えば、秋の天皇賞では大出遅れ。記憶に残る馬でした。兄のサムライハートやザサンデーフサイチ、フォゲッタブルはこれといった名馬を出せなかっただけに、GⅠ馬のルーラーシップには大きな期待が掛かっていました。サンデーサイレンスの血を持たないことも、ディープ牝馬の時代には貴重です。

初年度産駒は、アディラートがUAEダービーに参戦し、ダンビュライトが皐月賞3着。勝ちきれないまでも、着々と結果を残していました。

キセキに注目していた理由

その中でも、新馬戦を勝ったときからエアグルーヴ系の筆頭として注目していたのがキセキ。2戦目のセントポーリア賞に負け、春は勝ちきれない競馬が続き、「そこまででもないのか」と思う時期もありました。しかし夏の2連勝を経て、神戸新聞杯(GⅡ)ではダービー馬レイデオロの2着。力の差は見せつけられたものの、世代上位の強さはありそう。有力馬の少ない菊花賞は、かなりチャンスではないか。そう思うようになりました。

菊花賞当日、押し出された1番人気

台風による大雨が続き、戦前から極悪の不良馬場が予想されていました。全馬初距離の3,000mに加えて、どの馬も経験のない不良馬場。予想の立てようがありません。

そんな中、皐月賞馬アルアインを押さえて1番人気に支持されたキセキ。ただし、神戸新聞杯で見せた切れ味が不良馬場では活きないのでは、という思惑からか、レースが近づくにつれて単勝オッズは上がり、最終的には4.5倍。押し出された1番人気のような形でした。それでも、皐月賞は速い馬、ダービーは運のある馬、菊花賞は強い馬が勝つ。いちばん強いと思われている馬が勝つ。そう信じていました。

マリーナベイサンズの部屋で観た「楽勝」

当日はシンガポールに旅行中で、マリーナベイサンズに宿泊していました。14時(日本時間15時)にチェックインして、部屋に入って早々テレビをつけます。競馬に興味のない同行者は、呆れて散策に出かけていきました。

キセキは、かつて極悪馬場を快勝したルーラーシップの仔。ならば不良馬場もこなせるだろうと、妙な自信がありました(当日の投稿)。

いざレース。父のような出遅れはなく、道中は後方。事前のインタビューで鞍上のデムーロ騎手は2、3番手につけたいと語っていましたが、この馬場ではプラン変更もやむなし。2周目の3コーナーでは前から潰れていく消耗戦の様相。そして4コーナーを回って、キセキは馬場の消耗が少ない大外へ。直線入口での伸びはいまいちで「届くのか」と心配しましたが、なんのその。最後は2着に2馬身差をつけて優勝。デムーロ騎手自身が言ったとおり、「楽勝」でした(レース直後の投稿)。なお3着のポポカテペトルは押さえていたものの、2着クリンチャーを買えず、馬券は撜沈。

ルーラーシップ産駒、初の重賞がGⅠ

この菊花賞は、ルーラーシップにとって産駒のGⅠ初勝利であり、重賞初勝利でもありました。エアグルーヴのファンとして、その系譜が活躍することは本当に感慨深い。菊花賞を観て感じたキセキの持ち味は、末脚と重馬場適性、そしてレースでの精神力。父と同じく、海外の競馬場でも強さを発揮できるタイプだと思いました。いずれは、ウイニングポストの称号にもある「ロンシャンの奇跡」を襲名してほしい。そう書いたのも、このときです。

世界中の競馬場を見て回る、という夢

筆者の人生の夢のひとつに「世界中の競馬場を見て回る」というものがあります。ブリーダーズカップからオーストラリアの田舎の草競馬場まで、数は多くないもののいろいろ訪れてきました。今回のキセキは京都競馬場でのレースでしたが、これがドバイやロンシャンとなるなら、ぜひとも観に行きたい。海外在住者の軽いフットワークを利用して、これからも競馬の旅を続けていきます。競馬の真の魅力は、血統とレースのドラマだと思うからです。

その後のこと(2026年追記)

キセキはその後、ジャパンカップや宝塚記念で2着を重ね、逸げてレースを作るスタイルでファンを魅了しました。そして2019年、本当に凱旋門賞に出走します。この記事で「ロンシャンで走るなら観に行きたい」と書いた筆者は、言葉どおりパリロンシャン競馬場まで観に行きました。