訪問:2019年10月6日(前日の5日も訪問)
世界中の競馬場を巡る旅。今回はフランス・パリのパリロンシャン競馬場(ParisLongchamp)です。2019年の凱旋門賞、キセキが出走した日の観戦記。チケットの買い方、フランスの馬券の種類、場内の雰囲気、そしてレースの記録です。
凱旋門賞に行くと決めるまで
2019年6月23日、宝塚記念。ルーラーシップ産駒で1番人気の菊花賞馬キセキの勝利を信じて疑わず、単勝と、2番人気レイデオロとのワイドをしこたま購入。結果、覚醒したリスグラシューに差されてキセキは2着、レイデオロは5着と散々な結果に。そしてすぐ、キセキの凱旋門賞挑戦が発表されます。
海外の競馬場巡りをライフワークにする者として、何より競馬好きとして、日本競馬界の悲願である凱旋門賞は一度は生で観ておかねばと常々思っていました。そこへ、現役で一番好きな馬が挑戦する。これは行かねば。気づいたらパリ行きの航空券を買っていました。
パリロンシャン競馬場について
概要
ロンシャン競馬場はパリ西部、ブローニュの森の中にある競馬場で、欧州最高峰のレース・凱旋門賞の舞台として知られます。毎年10月の第1日曜日には、世界中から競馬ファンが集まります。ブローニュの森に競馬場を造ることを提案したのはナポレオン3世の異父弟モルニー公で、こけら落としは1857年4月27日。これまで何度かスタンドの改修を経ており、現在の競馬場は2年半の改修工事を経て2018年4月にオープンしました(改修期間中、凱旋門賞はシャンティイ競馬場で開催)。リニューアルと同時に「パリロンシャン競馬場」に改名されています。
アクセス
エトワール凱旋門からわずか5kmほど。ブローニュの森はかなり広く、競馬場はその南のほうにあります(森の中にはもうひとつ、障害専門のオートゥイユ競馬場も)。地下鉄ポルト・マイヨ駅(Porte Maillot)から244番のバスに乗るルート(片道2ユーロ)が一般的です。
凱旋門賞ウィークエンドには無料のシャトルバスが運行され、ポルト・マイヨ駅発は同じく244番のバス停から。日本人も多く訪れるため、日本語の案内もあります。タクシーならパリ市内から20〜30分ですが、凱旋門賞当日は周辺の渋滞と交通規制がひどいので、行き帰りとも公共交通機関がおすすめです。
コース
右回りの芝コースで、周回コースが3つあります。
- 大コース(2,750m)
- 中コース(2,500m)
- 小コース(2,150m)
このほか、向正面のコーナー付近から延びる引き込み線の新コース(1,400m)と、直線コース(1,000m)があります。最後の直線は東京競馬場とほぼ同じ533m。2400m戦では日本の倍近い10m近い高低差や、最後の直線の前にある「フォルスストレート(偽りの直線)」など難所が多く、遠征の難しさも相まって、日本馬はまだ凱旋門賞を勝てていません。
凱旋門賞とは

凱旋門賞(Prix de l’Arc de Triomphe)は、毎年10月第1日曜日にパリロンシャン競馬場で行われる芝2400mのGⅠ。出走条件は3歳以上の牡馬・牝馬で、賞金総額はヨーロッパ最大、世界でもトップクラスです。3歳馬に箔をつけるためのレースともいわれ、斤量的に3歳馬が有利。カタール航空がスポンサーになり、レース名は「Qatar Prix de l’Arc de Triomphe」になっています。
前日に2つ、当日に凱旋門賞を含む6つのGⅠが行われ、この週末は「凱旋門賞ウィークエンド」と呼ばれます。当日のプログラムは次のとおり。
| 英語名 | 日本語名 |
|---|---|
| PRIX MARCEL BOUSSAC | マルセルブサック賞 |
| PRIX JEAN-LUC LAGARDERE | ジャン・リュック・ラガルデール賞 |
| ARABIAN WORLD CUP | アラビアンワールドカップ |
| PRIX DE L’ARC DE TRIOMPHE | 凱旋門賞 |
| PRIX DE L’OPERA LONGINES | オペラ賞 |
| PRIX DE L’ABBAYE DE LONGCHAMP LONGINES | アベイ・ド・ロンシャン賞 |
| PRIX DE LA FORET | フォレ賞 |
意外と高い凱旋門賞の入場券

凱旋門賞ウィークエンドは世界中から注目を集め、特に当日は日本からも多くの観客が押し寄せるため、事前チケット制です(アメリカのブリーダーズカップも同じ)。予約はオンライン。日本語で手続きしたい場合はワールドスポーツコミュニティ株式会社のサイトが便利で、特にVIP席を取るなら日本語サポートがあるほうが安心です。一般席ならフランスギャロの公式ページから予約したほうが安く済みます。

一般席はArc Village(10ユーロ)、Arc Gardens(20ユーロ)、Winning Post Enclosure(65ユーロ)の3タイプ。Arc Villageは内馬場、Arc Gardensはゴール板より後ろ、Winning Post Enclosureはゴール板前のエリアです。内馬場は凱旋門賞当日のみの開放でした。高いチケットの保有者は安いエリアにも行けますが、逆は不可。行き来するポイントにセキュリティが立っています。当日券もありますが、10〜20ユーロほど高くなります。


一方、フードやアルコールの提供があるラウンジや、パドックに入れるVIPチケットは最低659ユーロ(約77,000円)とかなり高額。一生に一度と考えればVIPもありかと思いましたが、厳格なドレスコードがあり、行ったところで富豪と意気投合できるコミュ力もないので、今回は一般席にしました。それでもゴール板前のWinning Post Enclosureを選んだのは、せめてもの見栄です。
フランス競馬の馬券の種類と買い方
| 馬券名 | 券種 | 条件 | 最低購入価格 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| Simple Gagnant | 単勝 | 全レース対象 | €2~ | |
| Simple Placé | 複勝 | 全レース対象 | €2~ | 4~7頭のレースでは上位2頭が対象。 |
| Couplé Gagnant | 馬連 | 全レース対象 (8頭以上) | €2~ | |
| Couplé Placé | ワイド | 全レース対象 | €2~ | |
| Couplé Ordre | 馬単 | 全レース対象 (8頭以上) | €2~ | 4~7頭のレースでは上位2頭の内1頭を当てる。 |
| Trio | 3連複 | 全レース対象 (8頭以上) | €2~ | |
| Trio Ordre | 3連複 | 出走頭数5頭以上 | €2~ | |
| 2 sur 4 | 拡大ワイド | 出走頭数10頭以上 | €3~ | 拡大ワイド(上位4頭中2頭を順不同で当てる)。 |
| Super 4 | 4連単 | 出走頭数5~9頭 | €1~ | |
| Multi | 4連複 | 出走頭数14頭以上 | €3~ | 4~7頭を選択し、上位4頭を当てる。いわゆる4連複ボックス。 |
| Mini Multi | 4連複 | 出走頭数10~13頭 | €3~ | 4~6頭を選択し、上位4頭を当てる。 |
| Pick 5 | 5連複 | 1日2レースのみ | €1~ | 5頭を選択し、上位5頭を当てる。5連複1点買い。 |
| Tiercé | 3連単・複 | 1日1レースのみ | €2~ | Quinté+と同じレースが対象。 3頭を選択し、上位3頭を着順通り(3連単)もしくは順不同(3連複)で当てる。 1つの馬券で3連単と3連複を賄える。 |
| Quarté+ | 4連単・複 | 1日1レースのみ | €2~ | Quinté+と同じレースが対象。 4頭を選択し、上位4頭を着順通り(4連単)・上位4頭を順不同(4連複)・上位3頭を順不同(3連複)で当てる。 1つの馬券で4連単・4連複・3連複を賄える。 |
| Quinté+ | 5連単・複 | 1日1レースのみ | €2~ | 5頭を選択し、上位5頭を着順通り(5連単)・上位5頭を順不同(5連複)・上位4頭を順不同(4連複)・上位3頭を順不同(3連複)で当てる。 1つの馬券で5連単・5連複・4連複・3連複を賄える。 |
フランス競馬は馬券の種類が非常に多彩で、出走頭数によって買える券種が変わるのも特徴です。一方で、日本でお馴染みの流し・フォーメーションという買い方ができず、基本は1点買いかボックス。5連単の流しを買おうとすると買い目の数だけ馬券の枚数が必要になり、非常に面倒です。
購入は有人窓口、券売機、ウェブ登録によるモバイル馬券のほか、スタンドを歩く公式の売り子からも買えます。いずれもクレジットカードで購入でき、日本のカードでも問題ありませんでした。海外ショッピング利用として計上されるので、カードのポイントも付きます。筆者はスマホのメモ帳に買い目を入力し、有人窓口で見せて購入しました。




ロンシャン競馬場の場内
特徴的なパドック


ロンシャンといえば、この木の生えた特徴的なパドック。観客と馬の距離が非常に近く、手を伸ばせば触れられそうな距離です(つまり蹴られそうな距離でもある)。前日に撮った写真は人もまばらですが、凱旋門賞当日は人の入りが半端ではなく、凱旋門賞のパドックともなると人で溢れかえります。当日は各レースの表彰式もパドックで行われ、30分ちょっとの間隔で、レース後の周回→表彰式→パドック周回(3〜5周)→騎乗しての周回(1〜2周)を繰り返すので、パドックは結構忙しい。
おしゃれなスタンド




スタンドは改修したばかりで、とても綺麗。ベンチはなく、パドック同様に広々とした段差があるだけです。おかげでスタンド内が広く見え、移動もしやすい。日本の競馬場も採用してみてもいいアイデアだと思います。
優雅なコース前スタンドと馬場




結局、土日2日間とも競馬場に行きました。土曜日は当日券でArc Gardensへ。メインは翌日とあって人の入りはまばら。あいにくの雨模様で、翌日の凱旋門賞直前まで断続的に降ったため、凱旋門賞は日本馬にとって非常に苦しい重馬場になってしまいました。スタンドも含めて緑(芝生や木々)が多く、敷地も広いので、日本の競馬場と比べても非常に広大な印象です。
多い日本人観客と日本語対応

パリ市内を歩いているときから感じていましたが、この時期は日本人が非常に多い。理由はやはり凱旋門賞でしょう。場内には日本語インフォメーションがあり、馬券を紹介する日本語のチラシが配られ、一番驚いたのはパドックのイベントでフランス人の司会が日本語でアナウンスを始めたこと。良くも悪くも、日本は重要なマーケットとして捉えられているのでしょう。


「良くも悪くも」というのが筆者の素直な感想でもあります。前日、とあるエリアに日本馬の応援幕が掲げられ、大砲のようなカメラを持った人たち(おそらくメディアではなく個人)のお立ち台がフェンスにロックで固定されていました。迷惑をかける類のものかは分かりません。ただ、日本人の海外の競馬場でのマナーの悪さは有名で、2006年にディープインパクトが出走した際のマナーは地元紙にも取り上げられたほど。できる限り郷に入っては郷に従った観戦をしたいものです。応援幕は凱旋門賞当日には撤去されていました。寄せ書きに名前はなく、誰が掲示したかは分かりません。応援したい気持ちは理解しますが、正直ロンシャンの雰囲気にはそぐわなかったと思います。
紳士淑女の社交場、そして鉄火場
とはいえ、凱旋門賞のロンシャンが非常に厳格な場所かといえば、そうでもありません。ドレスコードはあってないようなもので、なくてあるようなもの。筆者はユニクロのウルトラライトダウンとジーンズで問題なく入場できましたが、欧米人はみな一様に着飾っていて、自分の服装が浮いていた感も否めません(誰も気にしていないでしょうが)。スーツ・ネクタイ必須とまでは言いませんが、着飾ったほうが場に馴染み、雰囲気も出ます。VIPエリアはもちろんドレスコード必須。
一方で、場所取りにレープロや上着を置いたり、終わった後にあたり一面が散らかっていたりするのは日本と変わりません。最後の直線で叫ぶのも同じ。そういう一面は、やはり鉄火場です。

日本と圧倒的に違うのは、場内でビールやワインを飲む観客が非常に多いこと。競馬が目的なのか酒が目的なのか分からなくなるほどですが、飲み過ぎて潰れている人はいませんでした。なおトイレは全体的に数が少なく、男子トイレでもそこそこ並ぶので注意。
いざ、凱旋門賞

凱旋門賞デーは第1レースからGⅠなので最初から人は多いものの、第4レースの凱旋門賞を迎えると人の入りも盛り上がりも頂点に。まずパドックでジョッキー紹介。日本馬3頭は馬番が横並びで、スミヨン(キセキ)、川田(ブラストワンピース)、ルメール(フィエールマン)が並んでいました。そして、馬の入場。







ジョッキーは大レースを前に一様に緊張しているようですが、地元のジョッキーたち(特にデットーリやスミヨン)はリラックスしているようにも見えます。個人的には日本馬の凱旋門賞制覇は日本人騎手でという想いもありますが、現実的にはロンシャンに慣れたジョッキーのほうが可能性は高いのでしょう。

現地の直前オッズは次のとおり。最終オッズとは異なりますが、日本(JRA)のオッズとはかなり隔たりがあります。
| 馬番 | 馬名 | 日本のオッズ | フランスのオッズ |
|---|---|---|---|
| 1 | フレンチキング | 156.1 | 32.0 |
| 2 | ヴァルトガイスト | 34.4 | 18.0 |
| 3 | ガイヤース | 19.4 | 14.0 |
| 4 | キセキ | 19.4 | 35.0 |
| 5 | ブラストワンピース | 18.1 | 45.0 |
| 6 | フィエールマン | 11.1 | 29.0 |
| 7 | ナガノゴールド | 249.1 | 74.0 |
| 8 | エネイブル | 1.5 | 1.6 |
| 9 | マジカル | 21.0 | 19.0 |
| 10 | ジャパン | 7.4 | 10.0 |
| 11 | ソフトライト | 108.9 | 75.0 |
| 12 | ソットサス | 8.4 | 6.8 |
人気のない日本馬は現地で買い、現地で人気の外国馬は日本(JRA)で買うほうが、オッズとしては得なのかもしれません。
凱旋門賞、発走
我らが④キセキは出足がつかず、得意の逃げに持ち込めない苦しい展開。フォルスストレートで⑤ブラストワンピースと⑥フィエールマンが脱落。最後の直線を向いたところで⑧エネイブルが抜け出し、⑨マジカル、⑩ジャパン、⑫ソットサスが続きます。馬券的にも「頂いた」と思いきや、ちょうど自分が観戦していた目の前で豪脚を繰り出した②ヴァルトガイストが、並ぶ間もなくエネイブルを交わし去っていき…。


結果、5歳馬ヴァルトガイストが優勝。エネイブルの3連覇を応援する一色だった場内は阿鼻叫喚、そしてため息。「#EnableChallenge」のハッシュタグを用意し、応援ボードまで無料で配っていただけに、観客にとっても自分にとっても残念な結果でした。レース後、このボードは至る所に投げ捨てられていました…。キセキは7着。

武豊とキーファーズ

この日は武豊が凱旋門賞を含む複数のレースに騎乗することも話題でした。第1レースのマルセルブサック賞では、社台ファーム生産のディープインパクト産駒で、キーファーズの松島正昭氏が馬主の「SAVARIN」に騎乗。2連勝中で前走ロンシャンのGⅢを勝っており、1番人気でした。第2レースのジャン・リュック・ラガルデール賞でも松島氏の「HELTER SKELTER」(前走ドーヴィルのリステッド勝ち)が出走。凱旋門賞後の第5レース・オペラ賞には、吉田照哉氏が馬主でGⅠディアヌ賞2着の「COMMES」も出走しました。
松島氏は大の武豊ファンで、凱旋門賞制覇に野心を燃やすオーナー。日本馬を連れて行くより、現地で強い馬を買って走らせるほうが凱旋門賞制覇に近いのでは、という考えの持ち主です。特に第1レースは勝つチャンスがありましたが、海外GⅠの壁は高く、いずれも結果は出ませんでした。それでもこういう挑戦の形は面白いと思いますし、続けていってほしい。
ファンサービス抜群のミカエル・ミシェル

ミカエル・ミシェルは当時24歳の新進気鋭の女性ジョッキー。2017年に72勝を挙げ、フランスの女性騎手の年間最多勝記録を樹立しました。2019年8月には札幌のワールドオールスタージョッキーズで初来日してJRA初勝利を挙げ、日本でも一躍時の人に。凱旋門賞前日にnetkeibaの記事で、最終レース後にパドックでサイン会が行われると知り、見に行ってみました。

自前で用意した写真に直筆サインをして配り、握手やセルフィーにも気持ちよく応じていました。このアナウンスはおそらく日本人しか知らなかったので、フランス人からすれば「なぜ若手ジョッキーの元にやたらと日本人が集まっているのか」と不思議だったに違いありません。
まとめ

一生に一度は生で観たい凱旋門賞。現地観戦は筆者の「死ぬまでにやりたい100のこと」のひとつでもありました。ヨーロッパへのフライトが思ったより安かったこと、何より現役で一番好きな馬が出走することもあって、今回の参戦を決めました。しかし人間、一度達成すると欲が出るもの。次の目標は「VIPエリアで、日本馬が凱旋門賞を勝つところを、生観戦する」です。
キセキとの出会いは2017年の菊花賞。フランスの競馬場の記事一覧はこちら、海外の競馬場の訪問記一覧はこちら。

